おごそかに遅れてバスがやつてくる西陽ざらつく坂の上より
/ 大塚洋子
歌集『冬のつばさ』のなかの一首。
時間に遅れてバスがやってきた。西陽がざらついている坂の上から。
ただそれだけの歌なのだが、初句の「おごそかに」がいい。
遅れているバスが遅れを取り戻そうと急ぐわけでもなく、
西陽を背に我が道を行くごとくやってくる、
そんな感じだろうか。
初句の「おごそかに」がなかったら歌は平凡だったかもしれない。
「おごそかに」で一首が立ち上がった。
『冬のつばさ』は作者の第五歌集。
日々の何気ないことを淡々と詠い続けた歌集である。
ものごとへの細やかな眼差しが感じられる。
ちなみに歌集の最後の方にまたバスの歌が出てくる。
昼の坂のぼりてをれば乗客がからつぽのバスわれを追ひ越す
あるいはこのバスは、
遅れていたバスがおごそかにやってきたのと同じ坂の同じ路線のバスだろうか?
それが今度は逆方向から歩いて坂を登っている自分を追い抜いてゆく。
そんなふうに考えると面白い。
日々の暮らしのなかの何気ないことに作者は目を向け、
その何気ない日常をつつましく詠い続けている。