2023年05月

おごそかに

おごそかに遅れてバスがやつてくる西陽ざらつく坂の上より

                           / 大塚洋子

 

歌集『冬のつばさ』のなかの一首。

時間に遅れてバスがやってきた。西陽がざらついている坂の上から。

ただそれだけの歌なのだが、初句の「おごそかに」がいい。

遅れているバスが遅れを取り戻そうと急ぐわけでもなく、

西陽を背に我が道を行くごとくやってくる、

そんな感じだろうか。

初句の「おごそかに」がなかったら歌は平凡だったかもしれない。

「おごそかに」で一首が立ち上がった。

『冬のつばさ』は作者の第五歌集。

日々の何気ないことを淡々と詠い続けた歌集である。

ものごとへの細やかな眼差しが感じられる。

ちなみに歌集の最後の方にまたバスの歌が出てくる。

 

昼の坂のぼりてをれば乗客がからつぽのバスわれを追ひ越す

 

あるいはこのバスは、

遅れていたバスがおごそかにやってきたのと同じ坂の同じ路線のバスだろうか?

それが今度は逆方向から歩いて坂を登っている自分を追い抜いてゆく。

そんなふうに考えると面白い。

日々の暮らしのなかの何気ないことに作者は目を向け、

その何気ない日常をつつましく詠い続けている。

作者にとって歌はまさに生活の一部なのであろう。


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  くちなし 

 

手紙

懐かしい人から手紙を頂いた。

短歌を始めた頃にネットで知り合った人で、その後何度か会ったことがある。

最後に会ってから十数年経つだろうか。

今は短歌は作ってはおらず読む方に専念しているらしい。

手紙は達筆。

達筆な人のなかには達筆過ぎてなにが書いてあるのか分からない人もいるが、

手紙は私が読めるように書いてくれている。気遣いがうれしい。

それにしても手紙というのはいい。

それも手書きの手紙。

メールでは伝わらない体温のようなものが伝わってくる。

残念ながら笑えるような悪筆の私にはそういう手紙は書けない(^^;

世が世なら瀬戸内の海賊衆の女将をやっていたのではないかという人だが、

今も先祖以来の島に住んでいる。

自分のような故郷といえるものがない人間にはそれも羨ましい。

ところで、手紙に書かれていた私の歌はこの歌ですよね。

 

 その頬に手触れるまでの歳月を弥勒菩薩は微笑みており
    
                        /『石榴を食らえ』

 

お手紙ありがとうございます。

またお会いしましょう。


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 瀬谷の丸やで夕飯。キンキの干物の焼魚定食。美味しかった。

 

 

 

批評

批評のための批評聞きたくなくて歌会に行かず春の野をゆく

 

 

歌会で批評をするとき、無理に批評をしようとはしないように気を付けている。

いい歌にしろ問題のある歌にしろ、一首の表現からその良さあるいは問題点を見極めて、

批評として言語化するわけだが、短い時間で言語化するのは難しいわけで、

なかなか整理できず言葉が出てこないことがある。

そういう時、私は無理に批評をしようと思わない。

とりあえず自分のなかで留保しておいてその場では、

「よくわからないけど、ちょっと気になる」とか、

「いい歌だと思うけど、〇〇のところはどうなんだろう」とか、

その程度の発言にする。

そういう指摘から他の人の違う視点での批評が聞ければそれでいいわけである。

それを、ことさら何かいい批評をしようとして言葉を並べると、

批評のための批評になってしまう気がして、私は嫌なのである。

ある程度歌会慣れしてくると言葉を並べるのは簡単である。

批評用語をそれらしく使っていれば形にはなる。

しかし、それは本当にその歌の批評になっているのか、

歌会慣れや勢いで出てきた言葉の羅列ではないのか、

そういうところを私は気を付けたいと思っている。


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    GW、三国街道の永井宿に咲いていた八重桜、もう散っただろうな。

射場キャンプ

GWの後半はアーチェリーの射場でキャンプ。

既にGW前半に巻機山で残雪の山を楽しんでいるので、

どこに行っても混んでいる後半は近場の射場で仲間たちと

バーベキューをしてキャンプを楽しむ。

昼前に集合してまずは買い出し、20人くらい集まるので肉や野菜を結構買い込む。

買い出しが終わったらバーベキューの用意と泊まるメンバーはテントの設営。

ちなみに自分が使っているテントは子供達がまだ小さい頃、キャンプに連れて

いくのに使っていたテント。もう結構古いわけだが問題なく使える。

で、バーベキュー開始。

肉を焼き、焼きそばを作る。かたわらでは天ぷら。

射場の取ってきたばかりの筍はあく抜きもなにもしないで天ぷらにしても柔らかくて

美味しい。先日、巻機山に行ったときに土産で買ってきた根曲がり竹も

皮を剥いて半分に切って天ぷら。これも美味い。

射場の一角ではダンボールと針金で作った即席の燻製器で

ウインナとチーズと卵とベーコンの燻製作り。

これはいい酒のつまみだった。

昼間からわいわい話しながら飲んで食べて楽しく過ごす。

夕方には日帰りの参加者は帰り、キャンプで泊まるメンバーだけになる。

日が暮れる前に射場のコースをちょっと歩いてみた。

新緑が綺麗である。

夕食を済ませ、昔懐かしいカーバイトの灯りのもと、ちびりちびりと酒を飲む。

テキトーなところでそれぞれのテントへ。

楽しい一日だった。


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 テントを設営
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 バーベキュー開始
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 巻機の土産の根曲がり竹
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 ダンボールと針金で作った燻製器
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 ウインナとチーズの燻製
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 日が暮れる前にコースを散歩
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 翌日はアーチェリー

巻機山2 三国峠

巻機山から下山して越後湯沢の温泉へ。

毎年、ゴールデンウィークの頃は残雪の山を登り、下山したら温泉に泊まるという

ことをしているのだが、越後湯沢で泊まることが多い。

ホテルは朝食のみで取り、夕食は温泉街で飲んで食べる。

気に入っているのが「五郎」という店なのだが、行ったら満席という案内があった。

で、以前入ろうとして予約で一杯と断られた「瀧ざわ」に行ってみる。

無理かなと思ったが今回は入れた。

カウンターとテーブル席の小さな店である。小料理屋という雰囲気。

メニューを見ると季節の山菜料理とかお造りとか、いろいろあって、

注文したものはいずれも美味しかった。

なかでもこの季節らしかったのは、こしあぶらの素揚げ。

酒は日本酒がメインで、新潟の酒をいろいろ置いている。

嬉しいのは半合から頼めることで、いろいろ飲み比べが出来る。

あとから知ったのだが、この「瀧ざわ」、ミシュランに載ったこともあるらしく、

予約の電話が何度もかかっていた。

今回たまたま空いていて入れたが予約した方がいい店なのだろう。

ここで白状してしまうと写真がない。

巻機から降りてきて温泉に入ったら疲れがどっと出て、食事の写真を撮るという

ことに頭がいかなかった(^^;

興味のある人は「越後湯沢 瀧ざわ」で検索すれば出てくると思う。

少量ずつ美味しいものをいろいろ食べたいなら「瀧ざわ」。

もう少ししっかり食べたいなら「五郎」かな。

いずれも新潟の酒をいろいろ取り揃えていて日本酒ファンには嬉しいところである。


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  瀧ざわの唯一の写真 馬のレバ刺し 美味しかった

翌日、のんびり朝風呂に入ってからチェックアウト、道の駅によって山菜を買い、

関越道に乗らず、一般道を三国峠へ。

何年か前の春、上越の山に登るために朝早く群馬側から三国峠を越えたのだが、

走っているとリンゴ畑にリンゴの花が咲いているのが見えた。

そのとき、昔聞いたカチューシャのメロディーをふと思い出した。

  りんごの花ほころび

川面にかすみたち

  君なき里にも

春は忍び寄りぬ

かつては新潟の山に行くために三国峠は結構走った。

しかし、関越トンネルが開通してからは便利な高速道をもっぱら利用するようになり、

三国峠は通らなくなった。

リンゴの花を見たとき思い出した。

そうだ、こういういい道があったのだと思った。

それ以来、山に行った帰り、急がないときは関越トンネルを通らず、

あえて遠回りの三国峠越えで群馬に入ってから高速に乗るようにしている。

特に新緑と紅葉の季節は三国峠越えの道は気持ちがいい。

峠近くはまだ桜が咲いているし、やわらかな新緑のなかの道を走るのは楽しい。


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  湯沢から17号を三国峠へ
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  峠あたりはまだ桜が咲いている
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  峠を越えて群馬側 三国街道永井宿あたり

群馬に入ってから後閑の駅前のドイツコーヒーの店に立ち寄り昼食を摂る。

「夢」という店だが、美味しいドイツコーヒーが飲めてドイツ料理が食べられる。

正直、なぜこの田舎でドイツ料理と思うような店なのだが、美味しい。

この店は昔からあって初めて行ったのは学生時代、山の帰りだった。

先代がなくなって今はその娘さんが引き継いでいる。

ひさしぶりにドイツ料理を食べドイツコーヒーを飲んで、

しばしまったりしたのち高速に乗って横浜に帰った。


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   後閑駅前のドイツコーヒー「夢」

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   店内はこんな感じ

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   レチョ  トマトベースの少し辛いスープに野菜やソーセージが入っている。
  パンかバスタで食べる。

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   じゃがいものパンケーキ 食べきれないときは真空パックにしてくれて持ち帰れる。

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   ドイツコーヒー アインシュベンナー 

巻機山

巻機山、まきはたやまと読む。

新潟と群馬の県境、利根の源流を巡る山稜の一角にある。

標高1967m。頂上周辺は池塘の点在する草原になっていて、

たおやかな山容の山である。

このあたりの山稜は若い頃よく歩いた。

巻機山には米子沢というナメの続く美しい沢があり、そこは3回くらい登っているし、

冬に山スキーで行ったり、残雪期に巻機山から利根の源流を巡る山稜を縦走したり、

ともかくよく行っていた場所である。

前日の夜、麓の清水の集落の民宿「雲天」に泊まる。

夕飯は季節の山菜、木の芽、うど、フキノトウ、ぜんまい。イワナの塩焼きと

汁物はナラタケの入ったけんちん汁、米は美味い魚沼のコシヒカリ。

酒は魚沼の地酒「巻機」。

いい気分で飲み、翌日は朝早く出るので朝食と昼食のお弁当を作ってもらう。

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  清水の民宿 雲天

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  山菜とイワナの塩焼きの夕食

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  茹でたウドに味噌つけて食べる、美味しい。

翌朝6時に出発して登山口の桜坂の駐車場へ。

ここから井戸尾根を登り巻機の頂上を往復する。

例年と比べ残雪が少ない。新緑の美しい尾根を登り、五合目を越えたあたりから

ようやく雪が出てきて残雪期の山らしくなってきた。

しばらく登ると向こうにヌクビ沢が見えてくる。

若い頃は残雪期に巻機登るときはヌクビ沢から登った。

残雪に埋まった沢沿いのルートで歩きやすく稜線に突き上げる雪の斜面が美しいのだが、

稜線には雪庇が残っていて、「あれが落ちてきたら死ぬよな」と言いながら、

危なそうなところは速やかに登るのである。

ま、何度も登ったが雪庇が落ちてくるのにぶつかったことはないので、

別に危険なルートではない。

ちなみに今回登っていたらヌクビ沢方面から大きな雪崩の音が聞こえてきた。

雪庇が落ちたのかな?(^^;


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 桜坂の駐車場
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 五合目から米子沢とマンサクの花
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 ようやく残雪の山らしくなってきた
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 正面に見える谷がヌクビ沢。谷の残雪が少ない。

森林限界を越えてもうひと登りすればニセ巻機である。

井戸尾根からは巻機の頂上は見えない、9合目の小ピークをニセ巻機と呼んでいる。

ここに立つと初めて巻機の本峰が見える。

少しくだったところに避難小屋がありそこから先は最後の雪の斜面、

ここを登りきると山頂の標識があるのだが、それは雪に埋まっていた。


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  ニセ巻機から巻機本峰

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  本峰へ下ったところに避難小屋がある。ここから最後の登り。

ちなみに巻機の本当の頂上はその標識のあるところではなく、そこから尾根をさらに

数百メートル行ったところである。石のケルンが積んである。

なぜ本当の頂上でないところに山頂の標識があるのかは知らないが、

巻機の頂上は池塘が点在する草原になっていて、

植生保護のため、あまり歩き回って欲しくないのかもしれない。

百名山オタクなどは頂上の標識があればそこで満足して帰ってくれるかもしれん(^^;;

そうすれば植生があまり踏み荒らされないですむだろう。

とりあえず本当の頂上で昼食にする。周囲は越後と関東を分ける脊梁山脈の真ん中。

南に目を向ければ谷川連峰に続く稜線があり、東に目を向ければ利根の源流の山々と

その北には越後三山がある。青春を過ごした山なみである。

ひと休みのあと登ってきた雪の尾根を一気に下る。

というか、気持ちは一気に下りたいのだが、疲れた足が雪に取られて予定より

時間はかかってしまった。車に戻り今日の泊まりの越後湯沢に向かう。

天気に恵まれたいい山行だった。

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 本当のビークからの眺め
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 頂上付近の雪の尾根
 

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