雪降りて起伏あらはな冬の山裂の深さが四方より迫る
/ 小澤婦貴子
小澤婦貴子の第六歌集『雪紐』のなかの一首。
無雪期、緑に覆われた起伏にしか見えない山も、
雪が積もるとひとつひとつの山襞がくきやかに浮き上がり、
特に天気の良い日などは山がはっきり見えるようになる。
私の住んでいる横浜からも冬になると雪の積もった丹沢の山なみが
夏とはまるで違うくきやかな姿で見える。
ところで、結句の「四方より迫る」はどう読むのだろうか。
「裂の深さ」とは山を裂く谷の深さであろう、
それが「四方より迫る」。
そうすると、山なみ全体ではなく、
そのなかのひとつのピーク、ひときわ高いピークかもしれない、そのピークに
向かって四方から(もちろん裏側は見えないわけだが)谷がせり上がっている、
そういう感じか。
冬の北アルプスの五竜岳とか鹿島槍とか、
山なみのなかで周囲より高い、そういう山がこんなふうに見えるかもしれない。
最初さらりと読んだときは、全体としての冬のくきやかな山なみを思い浮かべたのだが、
よく読んでみると、ちょっと違うのかもしれないと思ったのである。
歌の読みはやはり面白い。

射場でキンランが咲いた。絶滅危惧種。