2022年02月

斉藤雅也第二歌集『くれはどり』

礼状を書けずに積んだままになっていた歌集を少しづつ読んでブログに
書くつもりなのだが、確定申告に追われて進まない...。

  ふりむきて喪主が指さす岩手山雪を被きて輝き増せり

斉藤雅也の第二歌集『くれはどり』。

北上に暮らす作者の春夏秋冬を詠んだ歌集である。

岩手山の大きな姿は北上の暮らしのなかで、あって当たり前の風景として

存在しているのであろう。そういう暮らしが思われる。

  止められて電気料金借りにくる隣の人のてのひらの皺

  返すあて返すすべなき隣人のうそを思へりみぞれ降る夜

  皺くちやの諭吉を見つむ年の瀬に返しくれたる人にぎりゐし

  またしても諭吉一枚借りにくる翁は眉に雪をのせつつ

田舎での暮らしはのどかなことばかりではない。

過疎、高齢化、日本の田舎は大抵そういう問題を抱えている。

あるいはこの諭吉は、作者と隣人の間を行ったりきたりしているのだろうか。

  二日酔もちこしの父を見るたび飲むまいとひゐし酒のほのかな甘さ

子供からこういうふうに見られる父の立場が分かる人間としてはなんともいえない歌だが、

この歌の前に「翌朝に残りたるほど飲みし酒やめて六腑は朝をすがしむ」という歌があるか

ら、作者も一時はこの父とたいしてかわらなかったのかもしれぬ。

歌集名の『くれはどり』は集中この歌に出てくる。

  雪の田に降りる白鳥しらとりくれはどりあやなきまでの白さと思ふ

最初、白鳥の別名かと思ったのだが、「あや」の枕詞の「くれはどり」なのであろう。

古代、呉から日本に織物を伝えたという、くれはとり、あやはとりの織女の伝説から

きた枕詞らしい。集中の一首の枕詞を歌集の題にしているわけだが、その辺の意図は

どういうものなのだろう。また、春夏秋冬で歌集をまとめることの難しさとか、

幾つかの課題はある気がするが、短歌が自分の時間に錘をつけるものであるならば、

この歌集は北上の風土のなかで暮らす作者の日々に錘をつけた歌集なのであろう。


DSC_1692

  紅梅
 

怒鳴り声

朝、事務所に行こうとしたら道を宅配の車が塞いでいた。

近くの家に荷物届けているのだろうと思ってしばらく待つが、

ドライバー戻ってこない。

仕方ないのでクラクション鳴らしてみるがドライバーらしき人は出てこない。

車のところに行ってみると、エンジン付けっ放しでドアも鍵がかかっていない。

荷台にはアマゾンの荷物などが載っているのが見える。

なんとも不用心、不届き者がいれば荷物持っていかれそうだ。

何回かクラクション鳴らしてみるが、やはり誰も出てこない。

こちらもだんだん腹が立ってきてクラクションを激しく鳴らすようになる。

宅配の仕事で車を停めるのは分かるが、

これだけ長く道を塞いでクラクションを何回鳴らしても出てこないというのはちと珍しい。

ようやく向こうから荷物を持ったドライバーが「ごめんなさ~い」と言いながら走ってきた。

いい加減、頭にきていたので、「なにやってんだ!  バカヤロー!」と怒鳴ってしまう。

そしたらドライバー、「御免なさい、1分だけ止めました」

それ聞いてさらに頭にきた。

「嘘つけっー、さっきからずっと停まってただろー!  写真撮ったからな、

バカヤローさっさと行けー!

ドライバー、顔が固くなって、そのまま走り去った。

それはそれとして、あとから気分が悪くなった。

確かにあのドライバーが悪いのだが、

あそこまで怒鳴らなくてもよかったかな

正直、今まで仕事で怒鳴ったことはあるが、別にそれは気にしていない。

仕事で怒鳴るのは怒鳴らなければならないから怒鳴るのだ。

怒りをはっきり伝えなければならない時というのはある。

しかし、街中のトラブルで大声で怒鳴るというのは恰好のいいものではない。

確かに、ドライバーがどこかに行って車は道を塞ぎっぱなし。

戻ってくれば「1分だけ停めました」としゃあしゃあと嘘をつくのだから悪質である。

しかし、悪質であってもあれだけ怒鳴られたら、あのドライバー今日一日気分が

悪かったろうな。40代くらいの男だったが、家に帰れば子供もいるのかもしれない。

それが道の真ん中であれだけ怒鳴られたらね

俺って、そんな怒鳴るような男じゃなかったよな

そんなことを思ってしまった。

確定申告で疲れて、休日の昨日も夜の12時過ぎまで仕事をしていた。

いらいらして怒りを抑えられなくなったのだとしたら不熟である。

若者の未熟はいい。

いまだ熟さず、しかし、これから熟すだろう。

年寄りの不熟はいけない。

もはや熟さず。

それで終わりだ。

不熟は仕方ないとして、

必要以上に怒鳴ったことはやはり人として反省するべきなのだろう。


DSC_1703
  地下鉄グリーンラインのセンター北駅の近くのカレー屋アジョワン
 確定申告の時期、年に一度だけ行く。今日はチキンガーリックカレー。
 美味しかった。

モスクワは涙を信じない

昨夜、冬季オリンピックのフィギュアスケートの試合を見ていた。

ドーピング疑惑を持たれたロシアのワリエワはミスを繰り返し4位に終わった。

演技が終わったとき、彼女は顔を両手で覆って泣いていたが、

私はそれを見ていてロシアの「モスクワは涙を信じない」という言葉を思い出した。

彼女のドーピング疑惑が真実のものなのかどうか私は知らない。

試合前は激しい非難にさらされたが、

試合後に可憐な少女が流した涙はそういう周囲の雰囲気に波紋を投げたはずであり、

実際、その後、試合前とは打って変わって彼女への同情を口にする人が増えた。

ただ、問題はスポーツはルールという前提なしには成立しないということである。

一部の者だけがルールの適用を緩められたならばスポーツは存在しえなくなる。

16才未満の未成年の保護というのは人権の問題である。

彼女は確かに同情に値するのかもしれないが、

スポーツがルールなくして存在しえないということと人権の問題はまた別だろう。

それにしても演技が終わったあとのコーチの言葉が凄い。

「なぜ諦めたの、なぜ戦いをやめたの、説明して」

涙を信じないモスクワを体現しているようなコーチである。

今後、彼女はどうなるのだろう?

まだ若い彼女には才能を花開かせてほしいと思うが、

それならばロシアから他の国に移って活動した方がいいかもしれない。

モスクワは涙を信じない。

ドーピング疑惑で瑕がついた選手は使い捨てられるだろう。


DSC_1663
  なじみの蕎麦屋に行ったら店の女の子がオーナーからの
 プレゼントですと言って今はあまり販売していない響を持ってきた。
 でも、プレゼントと言ってたけど、しっかり勘定に入ってた(^^;

確定申告

確定申告が始まる。

216日から315日が申告の期間。

新型コロナのため去年一昨年と申告期限の一カ月延長がおこなわれたが、

今年はそれはおこなわれない。

代わりに、新型コロナの影響で期限内に申告・納付することが困難な向きは、

申告書の余白に「新型コロナウイルスによる申告・納付期限延長申請」と書き込む

という簡易な方法で415日までの個別延長が可能になっている。

毎年、確定申告の時期は税理士は無料相談会などに派遣される。

うちの支部では2日間の協力を求められる。

税理士になりたての頃は、もろ確定申告の期間に無料相談をやっていたが、

自分の顧客の申告をしないといけない税理士には2日間でもつぶされるのは負担が

大きいわけで、いつ頃からか前倒しで1月あたりから無料相談をやるようになった。

今年も既に無料相談の相談員に行ってきたが、

ま、いろいろな人がいる(^^;

令和2年分の医療費の明細を持ってきて、令和2年分はもう申告してしまったから

令和3年分でこれを引いてくれと言い張る御老人。

こういう場合は、令和2年分の更正の請求をし、令和3年分は令和3年にかかった

医療費しか引けないわけだが、それを十回くらい繰り返し説明した(^^;;

同じことを大きな声で繰り返せば言うことを聞いてくれると思っていたのであろうが、

徒労に終わって帰って行った。

寄付金控除の対象にならない寄付金の領収書を持ってきて、

「去年やつてくれた先生は引いてくれた、おかしいじゃないか!」と言い張る御老人。

見ると、去年の申告書に税理士の署名がある。

同じことを何回説明しても分からないので、

「この税理士さん、気づかなかったんでしょうね。その税理士に頼んだら」

と言ったら、ようやく諦めてくれた。

ま、それでも昔の無料相談と比べれば大人しいもんである。

かつては無料相談の会場の内も外も人が一杯で殺気立っていた。

大勢並んでいる間を縫って会場に入ろうとすると「割り込むな!」と怒鳴られた

ことがある。「相談員の税理士ですけど」と言うと「えっ!」と吃驚された。

当時は若かったから税理士と思ってもらえなかったらしい。

相談に来る人達の大部分はちゃんと申告しようという人達なのだが、

なかにはふざけたのもいて、

あの頃は毎年、無料相談の度に1人か2人追い返した(^^;;;

医療費控除の足切り額が5万円から10万円に引き上げられて相談者が減り、

その後、電子申告がスタートしてさらに減った。

無料相談も今昔の感ありである。

さてさて、いよいよ確定申告、ちょっと忙しいひと月になる。


DSC_1664

   無料相談が始まる前の会場、今年は新型コロナの感染予防のため、
 会場の人数制限を実施、少しづつ会場に入ってもらった。 

苅谷君代第五歌集『白杖と花びら』

  セミを見たことのない子が折るセミの折紙やがてセミになりゆく

 

苅谷君代第五歌集『白状と花びら』のなかの歌。

盲学校の教師であった苅谷がセミの折紙を折る生徒を詠った歌である。

その生徒はセミを見たことはない。触ることで形を確認するしかなく。

教えられて折ってゆく折紙は盲目の生徒の掌のなかでやがてセミになってゆく。

「蝉」ではなく「セミ」であることに、視覚ではなく聴覚と触覚で把握している

対象が感じられる。

  雪降りし翌日ま(さを)なる空よ眩しすぎても人は寂しい

 

自らも緑内障を病んでいる苅谷は、目にしうるものを精一杯詠う。

雪の降った翌日の青い空を大抵の人は美しいと思うが、

視力を失いつつある苅谷は、その美しさを「眩しすぎても人は寂しい」と詠う。

  子が本を読んで欲しいとねだりし日われは点字を学びてゐたり

 

本を読んで欲しいと母にねだる子、その母は視力を失いつつあり点字を学んでいる。

母を慕う子とそれに応えようとしながら懸命に生きる母の姿が浮かぶ。

歌集は前半に盲学校や白杖を使うようになった作者の日々が詠われていて、

後半は戦争で亡くなった祖父や苅谷を支えてくれた父の死の歌などが続く。

詠いなれた安定した力を感じる歌集である。

  ひとつだけ叶ふ願ひがあるならば(むさぼ)るように本を読みたし

 

同じ歌会に出て苅谷の批評を聞きながら「思いの強さ」にいささかの違和感を

覚えることが何度かあった。

しかし、考えてみれば当然なのだ。

失われてゆく視力、そこにある悲しみ、あるいは焦り、懸命に生きて懸命に詠う。

苅谷はそうやって詠っているのである。


e3839fe38384e3839ee382bf3

     先日の丹沢でミツマタの群落があったが、まだ蕾だった。
 咲くとこういう感じ。いい香りがする。フリー写真より。 

丹沢 檜洞丸

丹沢の檜洞丸に行ってきた。

朝、横浜を出て東名を走り大井松田から中川温泉、その奥の西丹沢ビジターセンターへ。

ここの駐車場に車を停めて檜洞を目指す。

一緒に来た息子は別行動で畦ケ丸に登り、そこから大滝橋の方に下る。

到着した時間がちょっと遅かったので息子は支度をしてすぐに出発したが、

こちらは時間をみて行けるところまで行けばいい、というつもりでいるのでのんびり出発。

毎年この時期は仕事が忙しい。その合間を縫って骨休めと気分転換で久し振りに

山を登りに来たわけで、なにがなんでも頂上までとは思っていない。

今回、雪があるだろうと思って冬用の登山靴を履いているのだが、

冬用の登山靴は林道とか雪のない登山道では歩きにくい。

上の方に行けば雪があるかと思いつつ登るのだが、一向に雪は出てこず、歩きにくいのを

辛抱しながら登る。冬枯れの山にキツツキの木を叩く音が響いている。

途中、登山道はミツマタの群落を抜けていく。

花が咲く時期は綺麗だろう。


DSC_1665

   西丹沢ビジターセンター 
DSC_1667
  ミツマタの群落

一時間かからないくらいでゴーラ沢の出合。

ここから急登になるのだか、相変わらず雪は欠片もなく、石と木の根でごつごつした道は

冬用の登山靴では歩きにくいことこのうえない。

さらに登り続けると展望台に着き、向こうに畦ケ丸が見える。

息子はもう頂上に行っているかもしれない。

尾根を登り続けると稜線が近くなってくるが、やはり雪は少なく檜洞の頂上あたりも

あまり雪はなさそうである。それこそ運動靴で頂上まで行けそうな感じ。

別行動の息子と中川温泉で合流する時間を決めているので、その時間を見ながらの

行動になる。そろそろタイムアップである。結局、稜線に出る登山道の階段の下で

引き返すことにした。ここから一時間かからないで頂上だが合流時間があるので諦めた。

稜線に出れば雪の多い時期は上越の雪稜を思わせる雰囲気があるのだが、

雪が少なくてそんな雰囲気は微塵もなさそうである。


DSC_1673

  ゴーラ沢の出合 沢を渡り向こう側の尾根に取り付く
DSC_1674
  展望台から畦ケ丸方面 天気が良ければ富士山も見える
DSC_1676
  稜線直下からの檜洞丸 ほとんど雪がない
DSC_1678
  ほんの少し行けばもう稜線 まるで雪なし

駐車場に着く前に息子から電話があり、畦ケ丸から大滝橋の方に下山し、そのまま

中川温泉に向かっているという。こちらと違い若いから早い。武田信玄の隠し湯だったと

いう信玄館で合流し汗を流してのんびりする。

確定申告前の束の間の休養、これで帰れば仕事仕事である。

とりあえず旨い酒を飲みオリオンを見上げて温泉に入り英気を養うのである。


DSC_1681

   信玄館の地酒利き酒セット

DSC_1682
  信玄館の源泉 玄関の目の前にある

アーカイブ