さくらが死んだ。
ゴールデンレトリバー、13歳。
前脚の膝に腫瘍ができて同じところを3回手術した。
再発を繰り返し、最後は、もうこれ以上は手術できないと言われた。
膝の外側に異様に膨らんだ腫瘍を毎日消毒して化膿止めの薬を塗ってやることしか
出来なかった。腫瘍が大きくなり歩行も困難になり、
毎日の排泄は人間が手伝って庭に出さなければ出来なくなった。
10月18日が誕生日だった。
ケーキを食べたが、そのあとは力尽きたように寝ていた。
その週末くらいからなにも食べなくなった。
空腹も感じなくなったようで、口のところに餌を持っていっても食べなかった。
仕方ないのでシリンジで流動食を食べさせたが、
衰えていくのはどうにもできず水も飲まなくなった。
28日の朝、足腰が立たなくなってもそれまで粗相しなかったさくらが、
初めて毛布の上に粗相をしていたので、
抱えて風呂場に連れていって綺麗にしてやろうと思った。
抱えているうちにすっと重くなった。
すぐにおろしたら、まだ息はしていた。
その息がだんだん弱くなり、止まった。
隣で「さくら! さくら! 」と呼び掛けている娘に「死んだ」と伝えた。
そのあと体を綺麗にしてやり毛布に載せてケージに寝かせた。
さくらがうちに来たのは13年前、車で迎えに行った。
生まれて三か月のさくらは小さな箱に入って首だけ出して家に着いた。
玄関で箱の外に出したら、見たことのない場所に連れてこられてビックリしたのだろう、
後ろを向き、鮮やかなジャンプで元の箱のなかに飛び込んだ。
それから13年、いろいろなことがあった。
まだ小さいとき、私を追いかけて階段を登ったのはいいが、
下に降りるとき足を踏み外して、表情を変えることもなく足を揃えた姿勢のまま、
見事に宙を飛んで転げ落ちていった。
「さくら、大丈夫かっ! 」驚いて叫んだが、一階の床に叩きつけられたさくらは、
次の瞬間、目に飛び込んだオモチャに向かって突進していった。
あるとき、さくらが門戸から外に出てしまい行方不明になったときは、
仕事は後回しにして探して歩いた。
保健所のHPで保護犬も調べたが、結局見つけられず、ペットロス気分で晩飯も
食えず酒を飲んで寝た。翌朝、もう一度、保健所のHPを見てみたら、
なんでこうなっちゃったんだろう? みたいな情けない顔をしたゴールデンがいた。
人間の都合で避妊させるのが嫌で避妊させないでいたら子宮蓄膿症になり手術した。
前脚の膝の腫瘍は三回手術しても再発してさくらを苦しめた。
死んで2日目の土曜日、さくらを火葬した。
さくらと過ごした13年が終わった。
さくらのいない日々が始まる。
さくらが死んだ日も火葬の日もいい天気だった。
そういえば、さくらが家に来た日もいい天気だった。
さくらとコテージや温泉や海に行ったときもみないい天気だった。
さくらは晴れ犬だったのだろう。
さくらと散歩していたとき、
毎日、決まった坂道をさくらと駆け登っていた。
散歩していた老夫婦が「うわ~」と声をあげて見ていたことがある。
その話を子にすると、
「ゴールデンと走ってる人なんていないよ」と言われた。
さらに、「そのうち倒れるよ」と言われた。
ま、倒れることもなく生きてはきた。
さくら、待っててくれ。
湘南の海とさくら
近くの公園で
雪の日のさくら
なにを悩んでいるんだ?
梅園とさくら
魔法のスリッパで宇宙旅行をしているさくら