建設業界の底辺に動揺が広まっている。
仕事が減っているとか、そういう話ではない。
社会保険への加入である。
法人は健康保険・厚生年金への加入が法律により義務づけられていて、
それ自体は以前と変わらないのだが、取り扱いが厳しくなった。
建設業界でも一番下の下請けあたりになると、社会保険料の会社負担が払えず、
未加入の事業者が結構多い。
法律上は違法なわけだが今までは行政もそれを追求しなかった。
社会保険料を支払えず滞納になる会社が増えるだけになっても意味がないからである。
国に入るべき保険料は入らず、被保険者への支出だけ増えても困るわけで、
資金繰りの理由で社会保険に加入できない事業者に対し、今までは見て見ぬふりを
していたわけだが、その辺の取り扱いがしばらく前から変わった。
建設技能者の処遇を改善し、将来の技能者の人手不足を防ごうと、
社会保険への加入を促進するようになった。
それ自体は結構なことなのだが、
問題は、社会保険に入りたくても入れない、そういう請負単価で仕事をせざるをえない
下請け業者がたくさんいるということである。
現在の請負単価では社会保険の会社負担分を支払えない。
つまり、社会保険に入りたくないのではなく、入れないのである。
そういう現状を無視して役所が、社会保険に入れ、という号令のもと動き出したので、
そういう業者の間に動揺が広がっている。
建設業許可を取っている業者については許可の更新時に社会保険加入の有無を確認し、
未加入のところは、社会保険加入の指導をする。指導に従わない場合は、2年間遡って
の保険料徴収等、今までの対応とは全く異なる強引な対応に変わった。
いずれは社会保険未加入の事業者は建設業許可が取れなくなる、そういう予定である。
で、保険料を払えない業者はどうするかと言えば、
仕方がないので従業員を解雇し、全員一人親方の孫請けに変えてしまったり、
なかには、負担できない会社負担の保険料分、社員の給料を減らすという動きも出ている。
そういうことをせずに企業努力で頑張る会社も、
保険料の負担が経営に大きな圧迫になることは変わらない。
国の目的は、建設技能者の処遇改善ではなかったのか?
ところが、現状を無視した強引な遣り方の結果、
むしろ建設業界の一部では社員の下請け化、給料減額、下請け企業の経営悪化等、
社員の雇用を不安定化する影響が出ている。
建設技能者の処遇を改善したいのなら、
下請けが会社負担の保険料を支払えるだけの請負単価で仕事が出来るよう
指導する方が先だろう。
確かに公共事業については国交省からの告示が出ているが、民間工事はどうなる?
コストダウンの皺寄せを引き受けているのは底辺の業者である。
彼らは保険料を負担できない請負単価のままで、社会保険に入れ法律に従え、と
迫られているのである。
日本の会社の99%は中小企業であり、日本の経済は中小企業が支えている。
どんな優れた製品も底辺を支える中小企業がいなければ作れず、
どんな大きな建物も底辺を支える中小企業がいなければ建たないのだ。
加入するのが法律上の義務だという建て前を振りかざしても仕方ないのである。
現実を無視して物事をすすめる国の遣り方は危険だと言わざるを得ない。