アーチェリーの射場で常連仲間のひとりと話していて、

興味深い話を聞いた。

明治の文豪のひとり森鴎外。

日露戦争当時の陸軍の軍医のトップでもあったわけだが、

医者としては二流で権威主義的な人物であり、

彼の頑迷さのゆえに日露戦争で数万人の兵士が脚気に罹り死んだという。

「そんな二流の医者がなんで軍医のトップになったんですか?」 と聞いたら、

「役人の世界は上への報告をうまく書ける人間が出世するんですよ。

彼は漢文調で見事な報告を書いたんです」

言っている本人が医師免許を持って医療行政に携わっているお役人さんだから、

そうなのであろう。

米を精米して食べるようになって脚気に罹る人が増えた。

江戸時代、江戸で白米を食べる人が増えたことで脚気は「江戸患い」といわれた。

軍隊ではこれは大きな問題で、

海軍はわざわざ軍艦を出し何か月か航海させて、

一方の船は白米を乗組員に食べさせ、

もう一方の船は麦飯を食べさせるという実験をしたらしい。

その結果、白米を食べさせた船からは脚気の患者が出たが、

麦飯を食べさせた船からは脚気の患者が出なかった。

それで海軍では麦飯を食べさせるようになり、

日露戦争のときも脚気による死者はひとりも出なかったらしいのだが、

陸軍は鴎外が海軍の実験結果も部下の軍医からの進言も受け入れず白米を食べさせ続け、

その結果、数万人が脚気で死んだのだそうな。

「権威主義的で下からの意見は聞かなかったんですよ。そのために何万人も死にました。

とんでもない男です」

とその人は言っていた。

なんとなく分かる気がした。

森鴎外に限らず文学趣味の人間には割と権威に弱い人間が多い。

短歌をやっていてそれは感じる(^^;

たぶん、権威に対して自由でいられる人間はほんの一部であり、

大多数はそういう一部の人に自分を重ねているだけである。

いずれにしろ、文学趣味の軍医殿のために脚気で苦しんだ兵士達、

大変だったであろう。

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  紫蘭